この記事の要点
・国税庁が、非上場株式(自社株)の相続税・贈与税の評価ルールを抜本的に見直す方向で議論を進めています。
・報道によれば、上場企業の株価を参考にする「類似業種比準方式」を廃止し、会社の純資産と将来の収益力から計算する方式に一本化する案が示される見通しです。
・適用開始の目標は2028年(令和10年)1月以降の相続・贈与。利益が出ている会社ほど評価額が上がる方向です。
・一方、事業承継税制(特例措置)の実行期限は2027年(令和9年)12月31日。この2つの期限がほぼ隣り合っている点が、実務上いちばん重要です。
1. そもそも「自社株の評価」とは
上場していない会社の株式には、市場価格がありません。しかし相続税・贈与税は「時価」で計算するルール(相続税法22条)になっているため、価格を決める物差しが必要です。
その物差しが、国税庁の定める財産評価基本通達です。現在は主に次の3つの方法を、会社の規模と株主の立場によって使い分けています。
| 方式 | ざっくり言うと |
|---|---|
| 類似業種比準方式 | 同じ業種の上場企業の株価を参考に、自社の配当・利益・純資産を比べて計算する |
| 純資産価額方式 | 会社を今解散したらいくら残るか、という発想で計算する |
| 配当還元方式 | 少数株主向け。もらえる配当をもとに計算する(評価は低め) |
このうち類似業種比準方式は、純資産価額方式より評価額がかなり低く出る傾向があります。そのため「大会社の区分に入るように調整する」「利益を圧縮する」といった形で、評価額を意図的に下げる動きが広がっていました。
2. なぜ見直されるのか
きっかけは、会計検査院が2024年(令和6年)11月に公表した検査報告です。同じ会社でも、どの方式を使うかで評価額が大きく変わり、評価の公平性が必ずしも確保されているとは言えない、と指摘されました。
これを受けて国税庁は、2026年4月に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を設置。大学教授、日本税理士会連合会、日本商工会議所、M&Aの専門家などが参加し、議論が続いています。
会議で示された問題意識は、大きく次のとおりです。
- 方式の違いによる評価額の開きが大きすぎる
- 会社規模の区分の境目で評価額が急に変わる(いわゆる「崖」)
- 配当や利益を操作して評価額を圧縮できてしまう
- M&Aによる第三者への承継が増えており、実勢と乖離した評価では説明がつかない
3. 報道されている新ルール案
報道によると、新しい案の考え方はシンプルです。
直前期末の簿価純資産 + 今後5年間で見込まれる収益力 × 一定の係数
今後5年間の利益は、過去5年間の平均額などから算定し、赤字(マイナス)の場合も含めて計算するとされています。計算のもとになるのは、過年度の決算書や法人税の申告書です。
つまり、「上場企業と比べる」という発想をやめ、「その会社自身の財産と稼ぐ力」だけで評価する、という方向転換です。
図1:現行ルールと新ルール案の計算イメージ(新ルール案は報道ベースであり、確定した内容ではありません)
誰の負担が増え、誰が減るのか
報道された試算の傾向は、次のとおりです。
- 利益水準が高く、規模の大きい優良企業 → 評価額・税負担は増える方向
- 収益力がそれほど高くない中小企業 → おおむね横ばい
- 小規模・零細企業 → 評価額が下がり、税負担は軽くなる方向
これまで類似業種比準方式の恩恵で実力より低く評価されてきた会社ほど、その前提が変わることになります。
ご注意
現時点で公表されている試算は報道機関等による仮の計算であり、国税庁の公式な試算ではありません。係数の具体的な数値も明らかになっていないため、実際の影響額は確定していません。
4. 「増税」と決まったわけではありません ― 3つの注意点
ここは誤解が広がりやすいところなので、正確にお伝えします。
(1)法律改正ではなく「通達」の改正です
財産評価基本通達は法律ではなく、国税庁長官が発する通達です。国会の審議を経ません。今後は税制改正大綱への記載 → パブリックコメント(意見公募)→ 通達改正、という流れが想定されます。
(2)対象は相続だけでなく贈与も含まれます
評価通達は相続・遺贈・贈与に共通して使われます。報道では「相続」と表現されていますが、贈与も同じ影響を受ける点にご注意ください。
(3)まだ決まっていない部分が多く残っています
少数株主に適用される配当還元方式の扱い、不動産などの含み益の扱い、株式保有特定会社・土地保有特定会社といった特例規定の扱いなどは、現時点では明らかになっていません。断定的な情報にはご注意ください。
5. 経営者が今やるべきこと ― カギは「2つの期限」
見直しの議論とは別に、事業承継税制(法人版・特例措置)の期限が迫っています。この2つを並べると、やるべきことが見えてきます。
図2:評価ルール見直しと事業承継税制のスケジュール(2026年8月19日時点の見通し)
| 項目 | 期限 |
|---|---|
| 特例承継計画の提出 | 2027年(令和9年)9月30日 |
| 特例措置による贈与・相続の実行 | 2027年(令和9年)12月31日 |
| 新しい評価ルールの適用開始(目標) | 2028年(令和10年)1月1日以降 |
特例措置を使うと、自社株にかかる贈与税・相続税が全額納税猶予されます(一般措置は相続税で80%まで)。
つまり、現行の評価ルールと、100%納税猶予の特例措置を組み合わせて承継できるのは、2027年12月31日までということになります。ここを過ぎると、新しい評価ルールのもとで、一般措置を検討することになる可能性があります。
具体的な進め方
- 自社株の現在の評価額を出す
今のルールでいくらなのかを把握しないと、影響の大小が判断できません。 - 新ルールを想定した試算をしてみる
簿価純資産と直近5年の平均利益がわかれば、おおよその方向感はつかめます。 - 特例承継計画の提出を検討する
計画を出しても、すぐに贈与する義務はありません。選択肢を残すための手続きとお考えください。提出後に後継者や時期を変更することも可能です。 - 納税資金の見通しを立てる
評価額が上がった場合、相続税を何で払うのか(現預金、生命保険、金庫株など)を先に決めておきます。
6. まとめ
- 自社株の評価ルールは、1964年(昭和39年)の通達制定以来はじめての抜本改正が議論されています。
- 方向性は「上場企業と比べる」方式の廃止と、「純資産+収益力」方式への一本化。
- 利益が出ている会社ほど、評価額は上がる方向です。
- 適用は2028年1月以降が目標。その直前の2027年12月31日が、事業承継税制(特例措置)の実行期限です。
- まだ確定していない部分も多く、今年の秋から冬にかけての議論の行方を注視する必要があります。
自社株の評価額がどれくらいなのか、そして今回の見直しでどう変わりそうなのかは、会社ごとに大きく異なります。決算書と株主名簿があれば、おおよその現状把握は可能です。気になる点がありましたら、お気軽にご相談ください。
参考
・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」
・会計検査院「令和5年度決算検査報告」(2024年11月)
・中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
※本記事は2026年8月19日時点の公表情報および報道に基づいています。今後の議論により内容が変更される可能性があります。実際の適用にあたっては、必ず個別にご相談ください。