2026年9月18日公表・意見募集中
【速報】賃貸不動産の相続税評価「5年ルール」の通達案が公表されました
― 自社株(取引相場のない株式)への影響もあわせて解説 ―
30秒でわかる今回のニュース
- 国税庁が「貸付用不動産の評価について」という新しい通達の案を公表し、意見募集(パブリックコメント)を始めました。
- 亡くなる前(贈与の前)5年以内に買った・建てた賃貸物件は、路線価ではなく実際の取引価格で評価されます。
- 適用は2027年(令和9年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与から。
- 通達案には「会社の株を評価するときには、このルールを使わない」という一文があり、個人所有と法人所有で扱いが分かれます。
1. 何が公表されたのか
2026年9月18日、国税庁が「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達(案)を公表し、意見公募手続(パブリックコメント)を開始しました。
| 案件番号 | 410080055 |
| 公示日 | 2026年9月18日 |
| 意見の受付期間 | 2026年9月18日17時 〜 10月18日17時 |
| 根拠となる法律 | 相続税法第22条(時価によって評価する、という定め) |
| 担当部署 | 国税庁 課税部 資産評価企画官 審査係 |
通達案の「趣旨」には、次のように書かれています。
「近年における貸家等の市場価格と相続税評価額との乖離等の実態を踏まえ、評価の適正化とともに、予測可能性の向上を図るものである。」
2. なぜ見直されるのか(国が示した実例)
国税庁が政府税制調査会に出した資料には、実際の事例が載っています。数字を見ると、見直しの理由がはっきりわかります。
事例A(最高裁 令和4年4月19日判決の事案)
90歳前後で一棟マンション2物件を合計13.8億円で購入 → 通達評価額は合計3.3億円。借入金10億円を債務控除し、相続税額は0円で申告。
事例B(相続の約2年8か月前に一棟マンションを取得)
取得価額21.0億円に対し、通達評価額は4.2億円(約5.0倍のひらき)。鑑定評価額は18.5億円でした。
事例C(不動産小口化商品を贈与)
68歳の方が3,000万円で購入した信託受益権を、その約5か月後に9歳のお孫さんへ贈与。通達評価額は480万円(約6分の1)。贈与の翌年に販売会社へほぼ取得価額で売却=現金化。
国税庁の資料では、相続直前の駆け込み取得の事例でひらきが3倍超(中央値)、不動産小口化商品では5倍を超えるものも散見されると説明されています。
3. 新ルールの中身(5年ルール)
通達案の本文は、次のように定めています。
「課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築……された貸付用不動産……の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。」
そのうえで、取得価額が当時の相場どおりだったと認められる場合は、次の金額の80%で評価してよい、という簡便な方法が用意されています。
| 区分 | 計算のしかた |
|---|---|
| 土地 | 取得価額 × 地価変動率 × 80% 地価変動率=(相続の年の路線価等)÷(取得した年の路線価等) |
| 建物 | (取得価額 - 取得時から相続時までの償却費)× 80% 償却は定額法・法定耐用年数。1年未満の端数は1年に切り上げ |
対象から外れるもの(主なもの)
- 収用・換地処分・交換(所得税法58条)・特定の事業用資産の買換え(措置法37条)などで取得した物件
※もとの物件の譲渡価額の120%以内であることなどの条件つき - 相続で引き継いだ(=お金を払って買ったのではない)物件
- 通達ができる日より前から5年以上持っていた土地の上に建てた建物(その日に建築中のものを含む)
※通達案では制定日が「令和8年●月●日」と空欄のまま。この日付が実務上とても重要になります
4. 不動産小口化商品はもっと厳しい
不動産特定共同事業契約(任意組合型など)や、細かく分けられた信託受益権は「特定小口化商品」と名前がつけられ、いつ買ったかに関係なく、通常の取引価額で評価されます。5年を過ぎても逃れられません。
価格の情報がきちんとしている場合は、もとの元本相当額の90%(事業開始から5年以内のものは修正後の金額の95%)などで評価できる、という道も示されています。いずれにしても、これまでのように路線価で6分の1になる、ということはなくなります。
5.【重要】会社の株(自社株)の評価はどうなるのか
ここが、資産管理会社をお持ちの方・会社で不動産を所有している方にとって一番大事なところです。通達案の注書きには、こう書かれています。
「評価基本通達185((純資産価額))に定める土地等又は家屋等を評価する場合における当該土地等又は家屋等には、本項の定めの適用がないことに留意する。」
財産評価基本通達185は、取引相場のない株式(非上場株式)を「純資産価額方式」で計算するときのルールです。つまり——
株式評価では、これまでどおり通達185の「取得から3年以内なら通常の取引価額、3年を超えれば路線価等」という現行ルールが続きます。
個人で持つ場合と、会社で持つ場合の比較(イメージ)
| 取得からの経過年数 | 個人が直接所有 | 会社が所有(株式の純資産価額) |
|---|---|---|
| 3年以内 | 時価(取得価額ベース×80%が可) | 通常の取引価額(80%の軽減なし) |
| 3年超〜5年以内 | 時価(取得価額ベース×80%が可) | 路線価・固定資産税評価額のまま |
| 5年超 | 路線価・固定資産税評価額 | 路線価・固定資産税評価額 |
表を見ると、取得から3年超5年以内の期間だけ、個人所有と会社所有で扱いが大きく違うことがわかります。「では法人にすればよいのでは」と考えたくなる場面です。
ただし、それを「安全な対策」と考えるのは危険です
- 国税庁は、取引相場のない株式の評価について「我々も問題意識を強く持っています」「会計検査院から指摘をいただいた」「看過できない事案については、財産評価基本通達6項を用いて個別に対応させていただいています」と、政府税制調査会の場で明言しています(令和7年11月13日 議事録)。
- 実際に、国税庁が公表した通達6項の適用件数27件のうち、14件は株式です(平成27年〜令和6年の合計)。不動産の13件より多い件数です。
- 国税庁では2026年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が開かれており、2026年9月16日に第6回会議が行われました。純資産価額方式そのものが検討の対象になっています。
6. かんたんシミュレーション
3年前に3億円(土地1.5億円・建物1.5億円、RC造)で賃貸マンションを購入した方が、2027年に亡くなったとします。地価は5%上がったと仮定します。
| これまで | 2027年1月以後 | |
|---|---|---|
| 土地の評価 | 約9,000万円 (路線価・貸家建付地) |
約1億2,600万円 (1.5億×1.05×80%) |
| 建物の評価 | 約5,300万円 (固定資産税評価・貸家) |
約1億1,200万円 (1.5億-償却約1,000万)×80% |
| 合計 | 約1億4,300万円 | 約2億3,800万円 |
| 相続税への影響(税率50%の場合) | — | 約4,750万円の増 |
※理解のための単純な試算です。実際は借入金、小規模宅地等の特例、法定相続人の数などで結果が大きく変わります。必ず個別に計算してください。
7. 今できる4つのこと
① 物件ごとに「取得日」と「取得価額」を一覧にする
取得日は原則として引渡しの日です。2027年1月1日から5年さかのぼって、対象になる物件を洗い出してください。改良費・設備費も取得価額に含まれます。
② 契約書・請負契約書・領収書をそろえる
80%の簡便法を使うには、取得価額が当時の相場どおりだったと示せる資料が要ります。土地と建物の内訳が分かる資料はとくに重要です。
③ 建築中・計画中の案件は日程を確認する
通達ができる日より前から5年以上持っている土地に建てる建物は、対象から外れます。「その日までに契約し、工事が始まり、費用の一部を支払っている」ことが条件です。通達の制定日はまだ決まっていません。
④ 「法人にすれば大丈夫」と急いで結論を出さない
株式評価では5年ルールが適用されませんが、通達6項による個別否認の対象は、むしろ株式のほうが件数が多いのが実情です。加えて、非上場株式の評価方法そのものが現在見直しの議論の最中です。法人化は、相続税だけでなく法人税・所得税・将来の出口まで含めて判断すべきテーマです。
意見を出すこともできます
この通達案は2026年10月18日17時まで、誰でも意見を提出できます(e-Govパブリック・コメント 案件番号410080055)。実務で困る点、書きぶりが不明確な点があれば、提出を検討する価値があります。
出典(官公庁の一次情報)
- e-Govパブリック・コメント「『貸付用不動産の評価について』の法令解釈通達(案)に対する意見公募手続の実施について」(案件番号410080055/国税庁)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=410080055&Mode=0 - 国税庁「説明資料〔財産評価を巡る諸問題〕」(令和7年11月13日 政府税制調査会 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合 第4回)
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/7digital-noukan4kai3.pdf - 同 専門家会合(第4回)議事録
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/7digital-noukan4kaigiji.pdf - 財務省「令和8年度税制改正の大綱」二 資産課税 3その他(4)相続税等の財産評価の適正化(令和7年12月26日閣議決定)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_02.htm - 国税庁「財産評価基本通達185(純資産価額)」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm - 国税庁「審議会・研究会等 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」
https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm#nai-hyoka
本記事は2026年9月19日時点で公表されている官公庁の情報をもとに作成しています。紹介しているのは「通達案」であり、意見募集を経て内容が変わる可能性があります。個別の判断は必ず税理士にご相談ください。