会社で買った絵画は経費になる?「100万円」の線引きが「200万円」に変わるかもしれません

2026年10月31日/法人税・所得税

会社で買った絵画は経費になる?
「100万円」の線引きが「200万円」に変わるかもしれません

■ はじめに:これは「まだ決まったことではありません」

この記事で取り上げるのは、国税庁が2026年(令和8年)10月30日に公表した通達の「改正案」です。案の段階なので、内容が変わることもあれば、そのまま決まることもあります。

いまは国民から意見を集めている期間(パブリックコメント)で、意見の締切は2026年11月28日です。
案のとおりに決まった場合の適用開始は「令和9年(2027年)1月1日以後に取得するもの」からとされています。

目次

1. そもそも、どういう話?

会社が応接室やロビーに飾るために、絵画や彫刻、壺などを買うことがあります。こうしたものを税金の計算上どう扱うかには、昔からひとつの悩みがありました。

建物や機械は、使っているうちに古くなって価値が減っていきます。だから毎年少しずつ経費にできます。これを減価償却といいます。
ところが美術品は、何年経っても価値が減らない(むしろ上がる)ことがあります。そういうものは経費にできません。

言いかえると

「価値が減っていくもの」=毎年少しずつ経費にできる(=減価償却資産)
「価値が減らないもの」=経費にできず、ずっと資産のまま

では、その絵が「価値が減るもの」なのか「減らないもの」なのか、どうやって決めるのでしょうか。1点ずつ鑑定するのは現実的ではありません。そこで国税庁は金額で機械的に線を引くというルールを置いています。その線が、いま「100万円」です。

2. 変わるのは、この1か所だけ

今回の改正案は、この「100万円」という金額を「200万円」に引き上げるという、たった1か所の変更です。対象は法人税と所得税の両方です。

項目 いま(改正前) 案(改正後)
金額の線引き 1点 100万円 以上 1点 200万円 以上
線より上のもの 原則として経費にできない(価値が減らないものとして扱う)
線より下のもの 減価償却資産として扱う(毎年少しずつ経費にできる)
改正される通達 法人税基本通達 7-1-1 / 所得税基本通達 2-14
適用開始(案) 令和9年(2027年)1月1日以後に取得する美術品等

※ なお、古美術品・古文書・出土品・遺物のように歴史的価値や希少価値があって代わりのきかないものは、金額に関係なく「価値が減らないもの」として扱われます。この部分は今回変わりません。

3. 図で見る「どこが動くのか」

変わるのは、下の図のグレーの帯の部分です。これまで「経費にできない側」だった100万円〜200万円の絵画などが、「経費にできる側」に移ります。

いま(改正前)

経費にできる
経費にできない
100万円 ▲

案(改正後)

経費にできる
ここが移る
経費にできない
200万円 ▲

※ 横軸は1点あたりの取得価額のイメージです。幅は説明用で、金額の比率を正確に表したものではありません。

4. どれくらい違うのか(かんたんシミュレーション)

以下はすべて「仮定を置いた概算」です。実際の取り扱いは、美術品の種類・設置場所・使い方によって変わります。償却の年数も資産の区分によって異なるため、ここでは説明のために年数を仮に置いています。必ず個別にご相談ください。

前提(すべて仮定):応接室に飾るための絵画を1点150万円で購入した。法人税などの実質的な負担率を30%と仮定し、償却は8年・毎年同額と仮定する。

いま(100万円基準) 案(200万円基準)
150万円の絵画の扱い 線より上
→ 経費にできない
線より下
→ 減価償却できる
1年あたりの経費 0円 約18.75万円
(150万円 ÷ 8年)
1年あたりの税負担の差 — 約5.6万円 軽くなる
(18.75万円 × 30%)
8年の合計 — 約45万円 軽くなる
(150万円 × 30%)

つまり、これまで「買っても1円も経費にならなかった」価格帯の作品が、購入代金のぶんだけ、何年かに分けて経費になる可能性が出てきます。
一方で、200万円以上のものは今までどおり経費になりません。線が動くだけで、考え方そのものは変わりません。

5. すでに持っているものはどうなる?

改正案には、過去に買ったものについての取り扱い(経過措置)も書かれています。案の文言を要約すると、次のような内容です。

令和9年1月1日より前に取得した美術品等であっても、新しい基準で「減価償却資産」に当たることになるもののうち100万円以上のものについては、減価償却資産として扱うことが認められます。

・法人…改正後の取り扱いを適用する最初の事業年度から(事業に使っていることが条件)
・個人…令和9年1月1日から

細かい条件は通達案の本文に書かれています。手持ちの作品が該当しそうな場合は、取得日・取得価額・設置場所がわかる資料をそろえておくと判断がスムーズです。

6. いま、できること

① 棚卸しをする 社内に飾っている美術品を一覧にします。1点ごとの取得価額・取得日・置き場所を書き出してください。100万円以上200万円未満のものがあれば、今回の改正の影響を受ける候補です。
② 買う時期を急がない 適用開始は令和9年1月1日以後の取得とされています。年内に慌てて買うと、かえって新しい基準の対象外になります。ただし案の段階なので、確定を待ってから判断するのが安全です。
③ 証拠書類をそろえる 「1点いくらか」がはっきりしないと判定ができません。請求書・納品書を1点ごとに分けて保管しておきます。複数点をまとめて一式で買っている場合は、内訳を出してもらいましょう。
④ 置き場所を記録する 金額の線より上でも、ロビーやホールのような不特定多数の人が利用する場所の装飾用などで、移すのが難しく他に転用できないものは、経費にできる場合があります。写真と設置状況を残しておくと説明しやすくなります。
⑤ 確定を待つ 意見の締切は2026年11月28日です。その後に正式な通達が出る見込みです。いまの時点で確定した話として処理しないでください。

国税庁が示した改正の理由

意見公募要領には、美術品等を1点ずつ判断することは実務上むずかしいこと、そしていまの金額基準が取引の実態と合わなくなっていると認められたことが、見直しの理由として書かれています。

出典(官公庁の公式ページ)

本記事は2026年10月31日時点で公表されている官公庁の資料に基づいて作成しています。記事中の改正内容は通達の案であり、確定したものではありません。また、記事中の計算はすべて仮定を置いた概算であり、個別の事情により結論は変わります。実際の判断にあたっては、必ず担当の税理士にご相談ください。

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この記事を書いた人

兵庫県宝塚市の税理士。相続税・贈与税申告、不動産の法人化、非上場株式の評価、事業承継を専門とし、不動産オーナーおよび中堅企業のご支援にあたっています。担当者が代わることなく、税理士本人が最初から最後まで対応します。書面添付制度にも対応。

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