自社株の相続税評価が変わる|国税庁 第6回有識者会議資料(令和8年9月16日公表)でわかった残余利益方式の中身

自社株の相続税評価が変わる|国税庁 第6回有識者会議資料(令和8年9月16日公表)でわかった残余利益方式の中身
国税庁「残余利益方式」の中身をやさしく解説(令和8年9月時点)

この記事のポイント

  • 国税庁が、非上場会社の株式(自社株)の相続税評価のやり方を根本から見直す議論を進めています。
  • 今の「会社の大きさで計算方法が変わる」しくみをやめ、「残余利益方式」という新しい1つの方法にそろえる案が示されました。
  • 国税庁の試算では、小さな会社は評価が下がりやすく、大きな会社は上がりやすい傾向です。
  • 従業員持株会の株は、要件を満たせば「固定価格」で評価してよい方向。ただしオーナー側の1株当たり評価は上がる計算になります。
  • 「純資産価額を上限にできる」しくみ(頭打ち)を残すかどうかも検討課題に挙がりました。なくなると、利益の出ている会社は影響を受けます。
  • いつから始まるかは、国税庁の公表資料では、まだ決まっていません。

本記事は、国税庁が令和8年9月16日に公表した「第6回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の配付資料など、官公庁が公表した資料のみをもとに書いています。会議で検討中の案であり、最終的な内容は変わる可能性があります。

目次

1. そもそも「自社株の評価」とは

会社のオーナーが亡くなったり、子どもに株を贈与したりすると、その株に相続税や贈与税がかかります。上場企業の株なら株価がありますが、非上場会社の株には値段がありません。そこで、国が決めたルールで値段を計算します。

法律には、こう書かれているだけです。

「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」
(相続税法 第22条)

「時価で」としか書いていないので、具体的な計算方法は国税庁の「財産評価基本通達」という内部ルールで決めています。このルールは昭和39年(1964年)にできたもので、約60年間、基本の形が続いてきました。今回、その基本の形を変えようという議論が進んでいます。

2. 今のしくみ:会社の大きさで計算方法が変わる

今のルールでは、まず会社を「大会社・中会社・小会社」に分けます。分け方は、総資産、従業員数、売上(取引金額)の3つです。たとえば通達にはこう書かれています。

「取引相場のない株式の価額は、評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)が次の表の大会社、中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて、それぞれ次項の定めによって評価する。」
(財産評価基本通達 178)

大きい会社は「同業の上場企業と比べる方法(類似業種比準方式)」を多く使え、小さい会社は「会社の財産を積み上げる方法(純資産価額方式)」の割合が高くなります。そして、類似業種比準方式を使えるほうが、評価額は低く出やすい傾向がありました。

今の評価水準のイメージ(純資産価額を100としたときの申告評価額の中央値)

大会社

38.2

中会社

53.4

小会社

63.8

出典:国税庁「第6回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」資料9ページ(対象1,378社)。数字が小さいほど、財産の額に比べて株の評価が低いことを意味します。

つまり、同じ財産を持っていても、会社が大きいほうが株の評価は安くなるという状態でした。国税庁の資料は、この点を「相対的不公平が生じている」と説明しています。会計検査院からも見直しを求める指摘が出ていました。

3. 新しい案:「残余利益方式」ひとつにそろえる

新しい案では、会社の大きさによる区分をやめて、「残余利益方式」という1つの方法にそろえます。考え方はシンプルで、次の足し算です。

株の評価額

① 帳簿上の純資産

② 5年分の「もうけの上乗せ分」

②は、期待される利益を超えて稼げた分(=残余利益)を5年分だけ足します。

「もうけの上乗せ分」は、次のように計算します。

残余利益 その年の利益 −(前の年の純資産 × 還元率)
還元率 株主が普通に期待する利回り。資料では仮に8%で試算されています(正式な決め方は第7回以降で議論)。
利益・配当 過去5年間の平均額を使います。ベースにするのは法人税の申告書(別表)とする案です。
しんしゃく率 安全性を考えて最後に掛ける割引。資料では0.7〜1.0で試算されています。

4. かんたんシミュレーション

国税庁の資料に載っている計算例です(資料26ページ)。

直前期末の純資産(帳簿) 1億円
年間の利益(税引後) 1,000万円
年間の配当 200万円
還元率/しんしゃく率 8%/0.8(いずれも仮定)

1年目の「もうけの上乗せ分」は、1,000万円 −(1億円 × 8% = 800万円)= 200万円。利益から配当を引いた分だけ純資産が増えていくので、2年目以降は期待される利益(純資産×8%)も増え、上乗せ分はだんだん減っていきます。

期首の純資産 期待される利益
(×8%)
もうけの上乗せ分
1年目 1億円 800万円 +200万円
2年目 1億0,800万円 864万円 +136万円
3年目 1億1,600万円 928万円 +72万円
4年目 1億2,400万円 992万円 +8万円
5年目 1億3,200万円 1,056万円 ▲56万円

この5年分を現在価値に割り引いて純資産に足し、最後に0.8を掛けると
株の評価額は 約8,261万円

帳簿の純資産1億円よりも低くなっています。「株主が期待する利回りを稼げていない分」がマイナスに働くためです。

資料には、利益が500万円しかない会社の例も載っています。この場合は5年間すべて上乗せ分がマイナスになり、評価額は約6,853万円まで下がります。利益が薄い会社ほど、評価が下がりやすいのがこの方式の特徴です。

5. 評価は上がるのか、下がるのか

国税庁は、実際の申告データ1,378社で試算しています。しんしゃく率0.8とした場合、今の評価額より下がる会社の割合は次のとおりです。

小会社(430社)

67.9%

中会社(820社)

42.2%

大会社(128社)

24.2%

出典:国税庁「第6回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」資料10ページ。しんしゃく率0.8、還元率8%と仮定した試算。

全体では48.6%の会社で評価が下がる計算です。ただし、これは「中央値」や「割合」の話であって、自分の会社がどうなるかは、利益の水準と純資産の大きさで決まります。利益が大きく出ている会社は、今より評価が上がる可能性があります。

6. 「節税のためのテクニック」は封じられる方向

資料では、利益を意図的に減らして株の評価を下げる手法への対応も検討されています。

対象 検討されている対応
オペレーティングリース(航空機・船舶等) そのリース取引が「なかったもの」として利益・純資産を計算し直す
直前期の多額の役員退職金 一時的な支出として、利益に足し戻す
親族役員への過大な役員報酬 経営の対価を超える部分の一定割合を利益に足し戻す(ただし慎重に検討と付記)
100%子会社への資産の付け替え 完全支配関係にある子会社株式を適正な価額に直して親会社の評価に反映

資料には「恣意的な利益操作を排除し、会社の正常な利益を求める」という考え方が示されています。期末に退職金や大きな損を出して株価を下げる、という段取りは通りにくくなる方向と読めます。

7. 不動産オーナーの方に関係する話

賃貸不動産を法人で持っている方には、「特定の評価会社」の見直しが関係します。今は「土地保有特定会社」「株式等保有特定会社」と分けていますが、これを「資産管理会社(資産保有特定会社)」に整理・統合する案が示されています。判定はこう変わります。

項目 見直し案
判定の対象 土地・株式をそれぞれ別に見る 投資目的等の「特定資産」をまとめて見る
使う金額 時価(相続税評価額)に洗い替える 帳簿価額のまま(事務負担の軽減)
基準 土地70%または90%以上など 事業承継税制の「資産保有型・資産運用型会社」を参考に設定(資産70%以上・収入75%以上など)

ここが注目点

「特定資産」には、自分で使っていない不動産(人に貸している不動産や遊休地)が含まれる整理になっています。あてはまると、残余利益方式ではなく純資産価額方式で評価されます。一方で資料は、「資産比率が特定資産に偏る業種(不動産賃貸業など)を、単なる資産管理会社と区別するにはどのような基準を設けるべきか」と、まだ問いの形で残しています。不動産賃貸業を本業とする法人の取扱いは、今後の議論待ちです。

8. 従業員持株会がある会社の取扱い

従業員の福利厚生として「従業員持株会」を置いている会社は、中小企業でも一定数あります。持株会での株のやりとりは、多くの場合「1株○○円」という固定価格で行われます。ところが、その固定価格と、相続税のルールで計算した評価額がズレると、次のような問題が起きていました。

ズレ方 起きること
固定価格が評価額より著しく低い 安く買えた分が給与とみなされ、従業員に所得税がかかるおそれ
固定価格が評価額より高い 退会時に安く買い戻されることになり、従業員が損をする

見直し案:一定の要件を満たせば「固定価格でOK」

資料では、一定の要件を満たす持株会の株は、その固定価格で評価してよいと整理する方向が示されました。要件として挙げられているのは次の3つです。

  • 従業員持株会を通じて保有している株であること
  • 持株会の規約または約款等に、株の価額が定められていること
  • 持株会からの退会時は固定価格で買い取られ、株を持ち出せないこと

オーナー側の株はこう計算する

持株会の株を固定価格で評価する場合、オーナー家が持つ株(持株会以外の株)の計算も調整されます。考え方は「会社全体の価値を、持株会の分とそれ以外の分に切り分ける」というものです。

持株会以外の株 1株当たりの評価額

会社全体の価値 −(固定価格 × 持株会の株数)

 

発行済株式数 − 持株会の株数

かんたん例

発行済株式10,000株のうち、持株会が1,000株を1株500円の固定価格で保有。会社全体の価値が8,000万円だとすると——
持株会の分:500円 × 1,000株 = 50万円
オーナー側の1株:(8,000万円 − 50万円)÷(10,000株 − 1,000株)= 約8,833円
※分母から持株会の株数を引くため、オーナー側の1株当たり評価は、単純に総額を全株数で割った場合(8,000円)より高くなります。持株会の安い固定価格の分を、オーナー側が背負う形です。

なお資料には参考として、固定価格での譲渡ルールが争われた平成21年2月17日の最高裁判決が挙げられています。従業員が制度の内容を理解して自分の意思で合意していた事案について、その合意は「会社法107条及び127条の規定に反するものではなく、公序良俗にも反しない」として有効と判断されたものです。規約がきちんと整っていることが前提になる、と読むのが自然です。

実務上のチェックポイント

持株会があるのに規約に価額の定めがない退会時に株を持ち出せる建て付けになっているといった会社は、この要件を満たしません。持株会を置いている会社は、規約の整備を今のうちに見直しておく価値があります。

9. 「純資産価額を上限にできる」しくみは残るのか

ここは、地味に見えて影響がとても大きい論点です。

今は「純資産価額が実質の上限」になっている

今のルールでは、通常の計算方法(類似業種比準方式など)で出した評価額が純資産価額より高くなってしまった場合、納税者が選んで純資産価額方式で評価してよいことになっています。結果として、純資産価額が実質的な「頭打ち」=上限として働いてきました。

今のイメージ(数字は説明用)

通常の計算での評価額

1億2,000万円

純資産価額

1億円

→ 納税者の選択で 1億円 を採用できる(上限として機能)

見直し案では「存置すべきか」が検討課題

第6回の資料は、この選択制をそのまま残すかどうかを検討課題として挙げています。資料には、次のような問題意識が書かれています。

「清算価値を継続企業の価値評価として選択を可能(上限)と整理することは困難ではないか?」
「見直しにより原則的評価方式ではなくなる純資産価額方式の選択を認める妥当性をどのように説明ができるか要検討」
(国税庁「第6回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」資料17ページ)

ここが心配なところ

もし上限のしくみがなくなると、残余利益方式で計算した評価額が純資産価額を超えても、そのまま課税されることになります。利益をしっかり出している会社ほど、この影響を受けます。純資産1億円の会社の株が1億2,000万円と評価される、といったことが起こり得ます。
※資料は「次回以降、純資産価額方式の各論として引き続き検討が必要」としており、廃止が決まったわけではありません。

「純資産価額とは何なのか」で控除できる項目が変わる

この論点は、「純資産価額方式とは、そもそも何を測っているのか」という位置づけの整理とセットになっています。資料では、次の3つの考え方が並べられ、どれを採るかで差し引ける項目が変わると説明されています。

位置づけ 退職給付引当金等 含み益に対する法人税等相当額
① 清算価値
(会社をたたんだらいくら戻るか)
控除できる 控除できる
② 会社財産に対する持分
(株は会社財産の持分という性格)
控除できる 控除できない
③ 個人事業者との均衡
(個人で財産を持つ場合とそろえる)
控除できない 控除できる
出資払戻時のみなし配当に係る源泉税額 ①のみ控除できる(②③は控除できない)

出典:国税庁「第6回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」資料17・21ページ。

とくに含み益に対する法人税等相当額の控除は、不動産を長く持っている法人にとって評価額を大きく左右します。今の通達では、この割合は38%です。

「…その残額に38%(法人税(地方法人税及び防衛特別法人税を含む。)、事業税(特別法人事業税を含む。)、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合)を乗じて計算した金額とする。」
(財産評価基本通達 186-2)

つまり、含み益のうち38%分を差し引けるということです。ここが「控除できない」整理になると、含み益の大きい不動産オーナー法人は評価額が上がることになります。

会社の区分ごとに使い分ける案

さらに資料では、純資産価額方式で評価する「特定の評価会社」について、会社の区分ごとに①〜③を使い分ける案も示されています。

会社の区分 当てはめる考え方
資産管理会社(資産保有特定会社) ③ 個人での財産所有との均衡
組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社 ② 会社財産に対する持分
開業前の会社、休業中の会社、清算中の会社 ① 清算価値(に準ずる)

賃貸不動産を法人で持っている方は、この表の1行目に注目してください。資産管理会社に「③ 個人での財産所有との均衡」を当てはめると、退職給付引当金等は控除できず、含み益に対する法人税等相当額は控除できるという組み合わせになります。法人で持つメリット・デメリットの計算が変わってくる部分です。なお、開業後5年未満の会社が純資産価額方式になる点も、新しく法人を設立して不動産を移す場合に関係します(今は「開業後3年未満」)。

10. いつから始まるの?

国税庁が公表している資料には、適用開始の時期は書かれていません。会議は令和8年4月20日の第1回から月1回ほどのペースで開かれ、9月16日が第6回です。第6回の資料には「第7回会議以降での想定論点」として、還元率の決め方、純資産価額方式の各論、配当還元方式(少数株主分)の扱いが挙げられています。議論はまだ続きます。

一部の民間サイトでは開始時期の予想が出ていますが、官公庁の公表資料で確認できないため、本記事では時期を示しません。正式な内容は、財産評価基本通達の改正が公表された時点で確定します。

11. いま、できること

① 新方式で計算したらいくらになるか、試算しておく

必要な数字は、直前期末の純資産(法人税申告書の別表五(一))と、過去5年の利益・配当です。手元の申告書でおおよその見当がつきます。今の評価額と比べて、上がるのか下がるのかを先に知っておくことが、いちばんの備えになります。

② 「評価が上がる見込み」なら、今のルールでの贈与も選択肢

利益がしっかり出ている会社は、新方式で評価が上がる可能性があります。ただし、通達改正の内容も時期も未定のため、「急いで動く」より「試算して、複数の道筋を用意しておく」のが現実的です。

③ 事業承継税制の期限を確認する

法人版事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出が令和9年9月30日まで実際の贈与・相続が令和9年12月31日までです(中小企業庁)。株の評価がどう変わっても、この期限は動きません。使う可能性があるなら、計画の提出だけでも先に済ませておく判断があります。

④ 決算書の「見え方」を整えておく

新方式は法人税申告書の数字をベースにする案です。過去5年の利益が基礎になるため、一時的な損益で毎期の数字が大きく振れている会社は、内容を説明できるよう整理しておくと安心です。

⑤ 従業員持株会がある会社は、規約を点検する

固定価格での評価が認められるには、規約・約款に価額の定めがあること、退会時は固定価格で買い取り、株の持出しができないことが要件に挙がっています。あわせて、固定価格をオーナー側が実質的に負担する計算になるため、持株会の株数と固定価格を洗い出して影響額を把握しておくとよいでしょう。

⑥ 「純資産価額を超える評価額」になった場合を想定しておく

頭打ちのしくみが残るかどうかは未定です。念のため、純資産価額と残余利益方式の評価額の両方を出して、どちらが高くなるかを確認しておきましょう。残余利益方式のほうが高くなる会社は、上限が外れたときの影響が大きい会社です。

出典(官公庁の公式ページ)

※本記事は令和8年9月18日時点の官公庁公表資料に基づく一般的な情報提供です。記載した見直し案は有識者会議で検討中のものであり、内容・適用時期は確定していません。

※個別の判断は、必ず顧問税理士にご相談ください。

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この記事を書いた人

兵庫県宝塚市の税理士。相続税・贈与税申告、不動産の法人化、非上場株式の評価、事業承継を専門とし、不動産オーナーおよび中堅企業のご支援にあたっています。担当者が代わることなく、税理士本人が最初から最後まで対応します。書面添付制度にも対応。

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