親の土地に子が家を建てたら相続税はどうなる?
「使用貸借」の取扱いをやさしく解説
この記事は、国税庁が出している現在有効な通達(昭和48年11月1日付「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」。国税庁ホームページ上の表示は令和8年8月31日付改正分まで更新)にもとづいて書いています。
これは「これから変わる予定の話」ではなく、いますでに適用されているルールです。
1. まず「使用貸借」とは何か
土地の貸し借りには、大きく2つのパターンがあります。
| 呼び方 | どんな貸し方か |
|---|---|
| 使用貸借 (しようたいしゃく) |
タダ、またはタダ同然で貸す。親子・親族間でよくある形。権利金のやりとりもない。 |
| 賃貸借 | きちんと地代をとって貸す。第三者に貸すときの通常の形。借地権が発生する。 |
「親の土地に、子どもが自分の家を建てた。地代は払っていない」——これが使用貸借の典型です。通達は、権利金などの受け渡しがある場合は使用貸借にあたらないとしています。
2. ルールは2つだけ覚えれば足ります
ルール① 借りた側の権利の値段は「ゼロ」
通達の第1項は、使用貸借で土地を借りたときの使用権の価額について「零(ゼロ)として取り扱う」と書いています。周りに借地権が当たり前のように取引されている地域であっても同じです。
→ つまり、子が親の土地を無償で借りて家を建てた時点では、子に贈与税はかからないという整理になります。
ルール② 相続のときは「自分で使っている土地」として評価
通達の第3項は、使用貸借に係る土地を相続や贈与でもらった場合、建物が自宅か賃貸かを問わず、「すべて当該土地又は借地権が自用のものであるとした場合の価額とする」と定めています。
→ つまり、相続税の計算では評価額を下げる要素がない(他人に貸している土地としての減額が使えない)ということです。
ここが落とし穴です。「子にタダで貸してあげているのだから、相続のときも安くなるのでは?」と考えてしまう方が多いのですが、通達の読み方は逆です。貸した時は税金ゼロ、相続の時は減額ゼロ。セットで理解してください。
3. 図でくらべる(相続税の評価額のイメージ)
※下のバーは、同じ土地を「どう貸しているか」で相続税の評価額のイメージがどう変わるかを示したものです。長さはイメージであり、実際の割合は土地ごとに異なります。
A 自分で使っている土地(自用地)
B 子に無償で貸している土地(使用貸借)
通達第3項「自用のものであるとした場合の価額」
C 第三者に地代をとって貸している土地(貸宅地)
借地権の分だけ差し引かれる(割合は土地ごとに異なります)
4. かんたんシミュレーション
【この計算は仮定を置いた概算です】
下の数字は、話をわかりやすくするために筆者が置いた仮の数字です。実際の評価額は土地の場所・形・路線価・借地権割合などで大きく変わります。ご自身のケースの金額は、必ず税理士に確認してください。
【仮定】自用地としての評価額が 6,000万円 の土地。借地権割合は 60% と仮定します。
| 貸し方 | 相続税の評価額(概算) |
|---|---|
| 子に無償で貸す(使用貸借) | 6,000万円 (6,000万円 × 100%) |
| 第三者に地代をとって貸す(貸宅地) | 2,400万円 (6,000万円 ×(1 − 60%)) |
| 差額 | 3,600万円 |
同じ土地でも、貸し方のちがいで評価額の出発点が3,600万円も変わる、という計算になります。だからといって「子から地代をとればいい」という単純な話ではありません。地代をとれば親に不動産所得が生じ、所得税・住民税がかかります。どちらが有利かは、土地の金額・ご家族の所得・相続までの期間によって変わります。
5. もうひとつ注意したい場面(第5項)
地代をとって貸していた土地(借地権がある土地)について、その土地を借地権者以外の人が買い取り、そのあと地代のやりとりをやめた——というケースがあります。
このとき通達第5項は、土地の取得者は「当該借地権者から当該土地に係る借地権の贈与を受けたものとして取り扱う」と定めています。つまり、何も払っていないのに借地権をもらった扱いで贈与税の話になりうるのです。
救いの手続きがあります
借地権者が地位を手放していないのであれば、土地の取得者と借地権者が連署して「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」(通達の別紙様式2)を所轄の税務署長に提出すれば、この贈与の取扱いは適用されません。
→ 同族間で土地の名義を動かす場面では、この書面の提出を忘れないことが大切です。
6. 今できる対策
- 親族間の土地の貸し借りが「使用貸借」か「賃貸借」か、紙で確認しておく。地代を払っているか、権利金のやりとりがあったか。記憶ではなく通帳と契約書で確認します。
- 「無償で貸しているから相続税も安い」という思い込みを捨てる。相続税の試算は、使用貸借の土地は自用地100%で計算し直してください。想定より税額が増えるケースがあります。
- 同族で土地の名義を動かす前に、第5項の申出書の要否を確認する。借地権のある土地を身内が買い取る計画があるなら、名義変更の前に検討します。
- 小規模宅地等の特例の適用可否とあわせて検討する。評価額100%でも、要件を満たせば別の制度で減額できる場合があります。使用貸借の話だけで結論を出さないことが重要です。
- 賃貸用の不動産をお持ちの方は、別の見直しの動きも注視する。賃貸用不動産の相続税評価については、現在国税庁で別途、通達案の意見募集が行われていました(意見の受付は令和8年10月18日まで)。こちらはまだ決まったことではなく、本記事のルールとは別の話です。確定したら改めて取り上げます。
出典(官公庁の公式ページ)
- 国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日付、令和8年8月31日付改正分まで更新)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/731101/01.htm - 国税庁「相続税関係 個別通達目次」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/souzoku.htm - 国税庁「財産評価基本通達」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm - 国税庁「法令解釈通達」メニュー
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/menu.htm
本記事は上記の公的資料にもとづく一般的な解説です。個別のご事情によって結論は変わります。実際の判断は、必ず税理士にご相談ください。