不動産の法人化で後悔する5つのパターン|金融機関の同意・社会保険料・売却時の負担

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不動産の法人化で後悔する5つのパターン

不動産の法人化は、うまくいった方と「やらなければよかった」とおっしゃる方が、はっきり分かれます。そして後悔の原因は、意外なほど決まっています。

多くの場合、原因は「所得税と法人税、どちらの税率が低いか」という比較そのものではありません。その周辺にある、入口の費用・金融機関・社会保険料・売却するとき・相続のときです。この記事では、実務でよく見る5つのつまずき方を、順番に整理します。

目次

なぜ「後悔」が生まれるのか

法人化の検討は、たいてい「個人の所得税率が高くなってきたから、法人のほうが有利では」という話から始まります。この入り口自体は間違っていません。問題は、それが「毎年の家賃収入にかかる税金」だけを見た比較になりやすいことです。実際には、最初にまとまった費用がかかり、毎年の社会保険料が増え、売るときの計算方法も相続のときの評価も変わります。

つまり、比べるべきは「1年分の税金」ではなく「法人化したあと10年・20年で出ていくお金の合計」です。この視点が抜けたときに、後悔が生まれます。

パターン1 入口でかかる費用を数えていなかった

個人が持っている建物を法人に移すということは、法律上は「売買」です。他人に売るのと同じ手続きを踏むため、同じように税金と手数料がかかります。

主なものを整理すると、次のとおりです。

[図解1]建物を法人へ移すときに発生する主な費用

項目 誰が負担するか 目安
登録免許税(建物の名義変更) 法人(買う側) 固定資産税評価額の2%(1,000分の20)
不動産取得税 法人(買う側) 本則4%。土地・住宅は軽減で3%
譲渡所得の税金 個人(売る側) 売却益に所得税15%+住民税5%(所有5年超の場合)
消費税 個人(売る側)が課税事業者の場合 建物部分は課税対象(土地は非課税)
会社設立・登記の実費、専門家報酬 法人・個人 案件により差が大きい

※税率・軽減措置には適用期限があります。実行時点の最新の規定をご確認ください。

実務での注意点
見落とされやすいのが消費税です。建物の売却代金は、土地と違って課税対象になります。個人側でその年の課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後に消費税を納める立場になる可能性があります。ご事情により結論が変わりますので、事前の試算をおすすめします。

パターン2 金融機関に話を通す前に進めてしまった

これが、実務でもっとも重いつまずき方です。アパートローンが残っている物件には、金融機関の抵当権がついています。そして融資契約には、担保になっている不動産の名義を勝手に変えないことを求める条項が置かれているのが一般的です。無断で法人に移すと、契約違反として残額の一括返済を求められる可能性があります。

また、法人で借り換える場合、金利や返済期間の条件が個人のときと同じになるとは限りません。税金が年50万円安くなっても、支払利息が年60万円増えれば差し引きでは損です。

順番を間違えない
「税理士に相談 → 金融機関に事後報告」ではなく、「金融機関の感触を確認 → 税務の試算 → 実行」の順で進めるのが安全です。借入がある物件では、銀行の同意が得られるかどうかが、そもそも実行できるかを決めます。

パターン3 社会保険料の増加を計算に入れていなかった

法人をつくると、社長ひとりの会社であっても、健康保険と厚生年金への加入が必要になります。日本年金機構は、法人の事業所(事業主のみの場合を含む)を厚生年金保険の適用事業所としています。「従業員がいないから関係ない」とはなりません。保険料は会社と本人で半分ずつ負担しますが、オーナー社長の場合、会社の財布も自分の財布も実質的にはつながっています。役員報酬を高くするほど税金は分散できても、社会保険料は増えていきます。

将来の年金が増える面もあるため、一概に損とは言えません。ただ、所得税と法人税だけを並べた試算では、この負担がまるごと抜け落ちます。比較表をご覧になるときは、社会保険料の行があるかどうかを必ず確認してください。

パターン4 売るとき・お金を取り出すときの負担が増えた

法人化の話は「持ち続ける前提」で語られがちですが、いつかは売る日が来ます。

[図解2]物件を売却したときの違い

個人が持ったまま売る

・所有期間5年超なら、売却益に所得税15%+住民税5%(ほかに復興特別所得税)

・給与や家賃収入とは切り離して計算する

・手取りはそのまま自分のお金

法人が持って売る

・売却益は家賃収入などと合算して法人税等の対象

・所有期間による軽い税率の仕組みはない

・手取りを個人に移すには、役員報酬や配当としてもう一度課税される

法人税の税率は、資本金1億円以下の普通法人であれば、所得のうち年800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.2%とされています(適用除外事業者などを除く。地方税は別途)。税率だけを見れば、個人の20%台と大きくは変わりません。差が出るのは、売った代金を自分の生活費として使いたいときです。法人のお金は法人のものですから、個人に移す段階でもう一度課税されます。他方で、他の年度の赤字と相殺できるなど、法人ならではの利点もあります。

数年以内に売る可能性がある物件や、買ったときより大きく値上がりしている物件を安易に法人へ移すと、出口で後悔しやすくなります。

パターン5 相続対策のつもりが、かえって不利になった

「相続税を減らすために法人化した」というお話は、よくうかがいます。ただ、法人化で相続財産が自動的に減るわけではありません。減るのは不動産という財産で、代わりに増えるのがその会社の株式です。

会社に利益が積み上がれば、その分だけ株式の評価額は上がります。その結果、「不動産は減ったが株価が上がり、相続財産の総額はほとんど変わらなかった」ということが起こり得ます。

もう一つ注意が必要なのが、土地の扱いです。建物だけを法人に移し、土地は個人のまま貸す形が多いのですが、権利金のやり取りをしないと、法人側で借地権をもらったとみなされて課税される可能性があります(権利金の認定課税)。これを避けるために、税務署へ「土地の無償返還に関する届出書」を提出します。

実務での気づき:届出を出していても安心できないことがある
この届出書が出ている土地は、相続税の計算では自用地としての価額の80%で評価する取扱いが示されています。ところが同じ通達の注書きで、使用貸借(=地代を取っていない貸し方)の土地については、届出書が出ていても自用地としての価額で評価するとされています。
実務では、契約書に地代の定めがあるのに入金がない、という例を見かけます。届出書を出したから大丈夫と思い込まず、契約書と実際の入金が一致しているかを一度ご確認ください。小規模宅地等の特例が使えるかどうかにも影響します。

相続対策として法人化が「効く場合」と「効かない場合」の分かれ目は、別の記事で改めて整理する予定です。

法人化を急がないほうがよいケース

次のような状況では、いったん立ち止まって検討されることをおすすめしています。

  • 数年以内に売却する可能性がある物件しか持っていない
  • 借入残高が大きく、金融機関の同意が得られる見通しが立っていない
  • 所得が増えたのが一時的な要因(立退料や保険金など)による
  • ご高齢で、相続が近い時期に見込まれる(移転コストを回収する期間が確保しにくい)
  • 法人の経理や申告を続けていく体制(記帳・決算・事務)の見通しが立っていない

後悔しないための進め方(3ステップ)

STEP 1

数字を1枚に並べる

物件ごとの家賃収入、不動産所得、借入残高、取得価格と今の相場、固定資産税評価額。ここが揃わないと判断できません。

STEP 2

金融機関に先に相談する

借入がある物件は、ここで結論が変わります。税務の試算より前に、実行できるかどうかを確認します。

STEP 3

出口と相続まで通算する

入口の費用、毎年の税金と社会保険料、売却時、相続時。この4つを合計して比べます。1年分の比較で決めないことです。

まとめ

法人化そのものが良い・悪いということではありません。合う方には有効な選択肢です。後悔が生まれるのは、比較の範囲が狭かったときです。

入口の費用・金融機関・社会保険料・売却時・相続時。この5つを最初に確認しておけば、少なくとも「知らなかった」による後悔は避けられます。

▶ 判断の手順そのものを知りたい方は、柱記事をご覧ください。
不動産の法人化は「いくらから」得なのか|相続まで見据えた判断の手順

法人化を検討する前に、一度ご相談ください

当事務所では、宝塚市・西宮市・伊丹市・川西市など阪神間の不動産オーナー様から、法人化の可否についてのご相談をお受けしています。物件の内容、借入の状況、ご家族の状況をうかがったうえで、「法人化しないほうがよい」という結論をお伝えすることもあります。実行ありきではなく、判断材料をお示しすることを大切にしています。

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執筆者

税理士 松本 裕志(松本裕志税理士事務所/兵庫県宝塚市)
相続税・贈与税、法人税、不動産の法人化、事業承継を中心に業務を行っています。阪神間の不動産オーナー様、中小企業の経営者様からのご相談を多くお受けしています。

出典(一次情報)

【免責事項】本記事は、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案に対する税務・法務上の助言ではありません。記載内容は執筆時点の法令等に基づいています。税制は改正されることがあり、また実際の取扱いは物件の状況、契約内容、ご家族の状況などによって異なります。実行にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づいて行われた判断・行為により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。

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この記事を書いた人

兵庫県宝塚市の税理士。相続税・贈与税申告、不動産の法人化、非上場株式の評価、事業承継を専門とし、不動産オーナーおよび中堅企業のご支援にあたっています。担当者が代わることなく、税理士本人が最初から最後まで対応します。書面添付制度にも対応。

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