自社株の評価で「差し引く割合」が37%から38%に変わりました
会社の株を相続や贈与で渡すとき、国税庁が決めたルールで株の値段(評価額)を計算します。そのルールのひとつ、「純資産価額方式」の中で使う割合が、令和8年4月1日以後の取得分から変わっています。この記事では、何が変わったのか、金額にするとどれくらいか、今のうちに何をしておくとよいかを、やさしく説明します。
まず結論から
令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した「取引相場のない株式」の評価では、純資産価額方式で差し引く割合が37%から38%になりました。差し引く金額が増えるので、株の評価額はわずかに下がる方向です。取得した日が3月31日以前か4月1日以後かで、使う割合が変わります。なお、関係するのは「上場していない会社」で、会社の規模や評価方法によって影響の大きさが違います(くわしくは2をご覧ください)。
1 何が変わったの?
国税庁は、令和8年3月25日付で「財産評価基本通達」を一部改正しました。会社の「含み益(ふくみえき)」にかかる税金の目安として差し引く割合が、次のように変わっています。
| 株を取得した日 | 差し引く割合 |
|---|---|
| 令和8年3月31日以前 | 37%(これまでどおり) |
| 令和8年4月1日以後 | 38%(新しい割合) |
※「取得した日」は、一般に、相続や遺贈では亡くなった日、贈与では贈与を受けた日を基準に考えます。4月1日をまたぐ案件は、日付を必ず確認しましょう。
変わった理由は、国税庁の資料によると、令和7年度の税制改正で「防衛特別法人税(ぼうえいとくべつほうじんぜい)」が新しくつくられ、割合のもとになる税率が変わったためです。
2 どんな会社に関係があるの?
この38%は、上場していない会社(取引相場のない会社)の株を評価するときのルールです。そして、すべての会社が同じ計算をするわけではありません。国税庁のルールでは、会社を「大会社・中会社・小会社」の3つに分け、それぞれ計算方法が決まっています。この3つは、会社の規模(従業員の数、会社の資産の額、1年間の売上の額)で分けられます。たとえば従業員が70人以上の会社は大会社です。
| 会社の区分 | 株の評価のしかた | 38%が関係するか |
|---|---|---|
| 大会社 | 原則は「類似業種比準価額」。ただし、納税者が選べば純資産価額で評価できる | 純資産価額を選んだとき |
| 中会社 | 「類似業種比準価額」と「純資産価額」を一定の割合で組み合わせて計算する | 組み合わせの純資産価額の部分で関係する |
| 小会社 | 原則は純資産価額。ただし、納税者が選べば中会社と同じ組み合わせの計算もできる | 原則として関係する |
つまり、中会社・小会社では純資産価額の計算が出てきます。大会社でも、純資産価額を選んだ場合は関係します。ただし、影響の大きさは会社によって違います。
影響がほとんど出ない(または出ない)ケース
- 大会社で、類似業種比準価額のまま評価する場合(純資産価額を使わないため)
- 含み益がない会社(評価差額がない場合は、差し引く金額が出ません)
- 上場している会社の株(この記事のルールは、取引相場のない株式のためのものです)
ほかにも、別のルールで評価する場合があります。
- 同族株主(どうぞくかぶぬし)以外の株主が取得した株式は、別の定め(評価基本通達188)で評価します。
- 資産の保有状況などから「特定の評価会社」に当たる会社(比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社など)は、別の定め(評価基本通達189)で評価します。
※ 自分の会社がどの区分に当たるか、どの評価方法になるかは、会社の規模や資産の中身で変わります。個別の判定は、必ず専門家にご確認ください。
3 「差し引く割合」って、何のこと?
会社が持っている土地や建物は、買ったときの値段(帳簿価額=ちょうぼかがく)より、今の評価のほうが高いことがよくあります。この差が「含み益」です。
もし会社を清算(せいさん)したら、この含み益には法人税などがかかります。そこで株の評価では、含み益の一部を「将来かかる税金の分」として先に引いてあげます。その割合が、これまで37%、これからは38%ということです。
計算のイメージ(かんたん版)
① 会社の財産を相続税の評価で計算した純資産
② 会社の帳簿(ちょうぼ)上の純資産
③ 含み益 = ① − ②
④ 純資産価額 = ① − (③ × 38%)
※ 実際の計算には、現物出資(げんぶつしゅっし)や合併で受け入れた資産の特例など、細かい決まりがあります。ここでは基本の形だけを紹介しています。
4 やってみよう:金額で比べるとどうなる?
【仮定】次のような会社を考えます(あくまで説明用の仮の数字です)。
- 相続税の評価で計算した純資産:3億円
- 帳簿上の純資産:2億円
- 含み益:3億円 − 2億円 = 1億円
- 株主は1人で、会社の株をすべて持っている(100%)
| 37%(旧) | 38%(新) | |
|---|---|---|
| 含み益に対して引く金額 | 3,700万円 | 3,800万円 |
| 純資産価額(会社全体) | 2億6,300万円 | 2億6,200万円 |
| 差 | 100万円 下がる | |
引く金額のくらべ(長さのイメージ)
この仮の例では、評価額は約100万円(会社全体の約0.4%)下がります。含み益が大きい会社ほど、差は大きくなります。たとえば含み益が5億円なら、引く金額の差は500万円です。
※ これは仮定を置いた概算です。実際の株の評価は、会社の規模や資産の中身によって、純資産価額方式以外の方法(類似業種比準方式など)と組み合わせて決まります。個別の金額は、必ず専門家にご確認ください。
5 今できる対策
- 自社の区分を確認する:大会社・中会社・小会社のどれに当たるか、特定の評価会社に当たらないかを確認します。ここがわかると、38%がどれくらい関係するかが見えてきます。
- 取得日を確認する:相続の開始日や贈与の日が、令和8年3月31日以前か4月1日以後かを確認します。4月1日以後なら38%で計算します。
- 過去の計算を見直す:令和8年4月1日以後の相続・贈与で、古い37%のままの計算書が残っていないか確認しましょう。
- 会社の含み益をつかむ:土地や建物、株式などの含み益がどれくらいあるかを、早めに一覧にしておくと、将来の株価の見通しが立てやすくなります。
- 計算書の様式を確認する:評価明細書(第5表など)の様式は、国税庁の最新のものを使うようにしましょう。
6 ここに注意
- 評価額が少し下がるからといって、株の評価が全体として有利になるとは限りません。自社株の評価方法そのものについては、国税庁の有識者会議で見直しが検討されています(まだ決まったものではなく、適用開始時期も決まっていません)。
- 会社の資産に不動産が多い場合は、不動産の評価の見直し案など、ほかのルールの動きも一緒に見ておく必要があります。
- この記事は一般的な説明です。個別の案件は、状況によって結論が変わります。
7 出典(国税庁の公式ページ)
- 国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」のあらまし(令和8年3月25日付 課評2-28ほか):
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/r0803/01.htm - 同・別添資料(PDF):
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/r0803/pdf/01.pdf - 財産評価基本通達178・179(会社の区分と評価の原則):
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/02.htm - 財産評価基本通達189(特定の評価会社の株式):
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/05.htm - 財産評価基本通達185・186-2(純資産価額、評価差額に対する法人税額等に相当する金額):
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm
令和8年10月19日時点の公表情報にもとづく解説です。