賃貸アパート・マンションの相続税評価はこう決まる
―貸家建付地・貸家のしくみ ―
「アパートを建てると相続税が下がる」とよく言われます。なぜ下がるのか、どこまで下がるのか。この記事では、国税庁が公表している通達と法律の原文だけを根拠に解説します。
1. 出発点は「時価で評価する」というルール
相続税や贈与税は、亡くなった時(または贈与を受けた時)の財産の「時価」に対してかかります。これは相続税法という法律にはっきり書かれています。
「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」
(相続税法第22条/出典:e-Gov法令検索)
ただし「時価」と言われても、土地や建物にいくらの値札が付いているのかは分かりません。そこで国税庁は財産評価基本通達という計算マニュアルを公表し、誰が計算しても同じ答えになるようにしています。
2. 人に貸すと評価が下がる理由
自分で住んでいる家と、人に貸している家。同じ建物でも、貸している方が評価は低くなります。理由はシンプルで、入居者がいると、持ち主は自由に使ったり売ったりできないからです。使い勝手が悪い分だけ、財産としての価値も下がる、という考え方です。
■ 図解:土地の評価はこう目減りする(イメージ)
自分で使っている土地(更地)
評価額 100
賃貸アパートの敷地(貸家建付地)
評価額 82(借地権割合60%・借家権割合30%・満室の場合)
(1)土地 ―「貸家建付地」の評価
「貸家(94≪借家権の評価≫に定める借家権の目的となっている家屋をいう。以下同じ。)の敷地の用に供されている宅地(以下「貸家建付地」という。)の価額は、次の算式により計算した価額によって評価する。」
(財産評価基本通達26/出典:国税庁ホームページ)
算式を言葉にすると、次のとおりです。
「賃貸割合」は、通達26(2)にあるとおり、建物の各部屋(各独立部分)のうち実際に貸している割合です。空室が多いほど、この割合が下がり、評価の下げ幅も小さくなります。
(2)建物 ―「貸家」の評価
建物はまず、固定資産税評価額がベースになります。
「家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額(略)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。」
(財産評価基本通達89/出典:国税庁ホームページ)
そのうえで、人に貸している建物は通達93により評価を下げます。下げ幅の基準となる「借家権割合」は、通達94(1)に「国税局長の定める割合による」と書かれており、法律上の固定値ではありません(実務では30%とされている地域が一般的です)。
3. かんたんシミュレーション
前提:土地の路線価評価額(更地)1億円/建物の固定資産税評価額5,000万円/借地権割合60%/借家権割合30%/満室(賃貸割合100%)
| 区分 | 自用の場合 | 賃貸している場合 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 10,000万円 | 8,200万円 | ▲1,800万円 |
| 建物 | 5,000万円 | 3,500万円 | ▲1,500万円 |
| 合計 | 15,000万円 | 11,700万円 | ▲3,300万円 |
計算:土地 1億円 ×(1 − 0.6 × 0.3 × 1.0)= 8,200万円/建物 5,000万円 ×(1 − 0.3 × 1.0)= 3,500万円
注意:上記は割合を仮に置いた計算例です。借地権割合は路線価図の記号で地域ごとに、借家権割合は国税局長の定めによって決まります。実際の数字は必ず個別に確認してください。
4. 見落としやすい「総則6項」というブレーキ
通達どおりに計算すれば必ず認められる、というわけではありません。財産評価基本通達には、次の一文があります。
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」
(財産評価基本通達6/出典:国税庁ホームページ)
いわゆる「総則6項」です。通達で計算した金額が実際の市場価格とかけ離れ、その差を利用して税負担を大きく圧縮していると見られる場合には、通達によらない評価がされることがあります。「借入れで直前に不動産を買い、相続後すぐ売った」といった極端なケースが典型です。
5. 今からできる備え
- 空室を放置しない。賃貸割合が下がると評価減も小さくなります。課税時期に一時的に空いていただけかどうかは、通達26(2)注2の考え方で判断されます。賃貸募集の記録を残しましょう。
- 固定資産税の課税明細書を保管する。建物評価の出発点です。毎年届く書類を捨てないでください。
- 「節税だけ」を目的にしない。総則6項のリスクを避けるには、購入や建築に事業上の合理的な理由(収益を得る目的、承継の必要性など)があることが大切です。
- 取得の経緯を記録に残す。いつ、いくらで、なぜ買ったのか。借入れの目的や返済計画も含め、後から説明できる状態にしておきます。
- 不動産の評価ルールは見直しの議論が続いている分野です。大きな取引を予定している場合は、実行前に税理士へご相談ください。
出典(官公庁の公式ページ)
- 相続税法 第22条(評価の原則)/e-Gov法令検索(デジタル庁)
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073 - 財産評価基本通達 6(この通達の定めにより難い場合の評価)/国税庁
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01/01.htm - 財産評価基本通達 26(貸家建付地の評価)/国税庁
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/05.htm - 財産評価基本通達 89・93・94(家屋・貸家・借家権の評価)/国税庁
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/03/01.htm
本記事は2026年8月25日時点の法令・通達の原文に基づく一般的な解説です。個別の事案への当てはめは、事実関係により結論が変わります。