【令和8年度改正】少額減価償却資産の特例が「40万円未満」に拡大
中堅企業の設備投資は、ここが変わりました
公開日:2026年8月22日/対象:年商1億〜50億円規模の法人経営者、資産管理法人をお持ちの不動産オーナー
この記事の結論
パソコンや機械などを買ったとき、これまでは「1台30万円未満」なら買った年に全額を経費にできました。この上限が「1台40万円未満」に広がりました。ただし①年間合計300万円までという枠は変わらない、②使える会社の規模の条件が厳しくなった、③貸付け用の資産は対象外、という3つの落とし穴があります。
1. そもそも「少額減価償却資産の特例」とは?
会社が100万円の機械を買っても、その100万円をその年に全部経費にできるわけではありません。機械は何年も使えるので、税法では「何年かに分けて少しずつ経費にする」というルールになっています。これを減価償却といいます。
ただ、それだと文房具に近いような安いものまで何年もかけて計算することになり、事務が大変です。そこで中小企業者等については「安いものなら買った年に全額経費にしてよい」という特例が設けられています。これが租税特別措置法第67条の5です。
▼ 条文の原文(e-Gov法令検索より)
「中小企業者等が、平成十八年四月一日から令和十一年三月三十一日までの間に取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産で、その取得価額が四十万円未満であるもの(その取得価額が十万円未満であるもの…を除く。…)を有する場合において、当該少額減価償却資産の取得価額に相当する金額につき…損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。この場合において、当該中小企業者等の当該事業年度における少額減価償却資産の取得価額の合計額が三百万円…を超えるときは、その取得価額の合計額のうち三百万円に達するまでの少額減価償却資産の取得価額の合計額を限度とする。」
2. 図解:金額でどう扱いが変わるか
1つあたりの取得価額によって、使える制度が階段のように変わります。
| 1つあたりの金額 | 使える制度 | 経費になるタイミング |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 全額損金(原則) | 買った年に全額 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産 または 本特例 | 3年均等 または 買った年に全額 |
| 20万円以上40万円未満 | 本特例(今回ここが拡大) | 買った年に全額 |
| 40万円以上 | 通常の減価償却 | 耐用年数にわたって分割 |
※改正前は、上の黄色の帯のうち「30万円以上40万円未満」の部分が通常の減価償却でした。ここが特例の対象に入ったのが今回の改正です。
年間300万円の枠は「変わっていません」
ここが一番の注意点です。1台あたりの上限は40万円に上がりましたが、1年間に使える合計額は300万円のままです(条文の「三百万円に達するまで」の部分)。バーで見るとこうなります。
1台30万円未満だったとき(改正前):30万円未満×約10台で枠が埋まる
1台40万円未満になったとき(改正後):40万円未満×約7台で枠が埋まる
つまり「単価が高いものも入れられるようになった」だけで、使える総額は増えていません。単価30万〜40万円の資産が多い会社ほど恩恵が大きく、単価の安い備品をたくさん買う会社にはあまり影響がありません。
3. 簡単なシミュレーション
前提:3月決算の法人が、期中に業務用ノートPC(1台38万円)を6台、合計228万円で購入して事業に使い始めた。PCの法定耐用年数は4年、定率法(償却率0.5)、事業に使った期間は11か月とします。
| 初年度に経費になる金額 | |
|---|---|
| 通常の減価償却(特例を使わない) 228万円 × 0.5 × 11/12 |
約 104.5万円 |
| 本特例を使う(40万円未満なので対象) | 228.0万円 |
| 差額 | 約 123.5万円 |
法人の税負担をおおよそ30%として計算すると、初年度の税金は 123.5万円 × 30% = 約37万円 少なくなります。改正前は1台38万円のPCは特例の対象外だったので、この差はまるごと今回の改正による効果です。
ただし、これは「税金が消える」わけではありません。減価償却は結局いつかは全額経費になります。特例は「早く経費にできる」=資金繰りが前倒しでラクになる制度だとお考えください。翌年以降はその資産の償却費がなくなるので、利益が出やすくなります。
※上記の税負担30%、償却率0.5、11か月使用という数値は説明のための仮の設定です。実際の税額は会社の規模・所在地・所得金額によって変わります。
4. 見落としやすい3つの落とし穴
落とし穴① 従業員数の条件が「400人以下」に
この特例が使えるのは、条文で「事務負担に配慮する必要があるものとして政令で定めるもの」に限られています。その政令(租税特別措置法施行令第39条の28)の原文はこうなっています。
「法第六十七条の五第一項に規定する事務負担に配慮する必要があるものとして政令で定めるものは、次に掲げる法人とする。
一 常時使用する従業員の数が四百人以下の法人(特定法人…を除く。次号において同じ。)
二 常時使用する従業員の数が三百人以下の特定法人」
「特定法人」とは電子申告が義務づけられている大きな法人(法人税法第75条の4第2項)のことです。従業員数が300〜400人台の会社は、去年は使えたのに今年は使えないということが起こり得ます。人数のカウントは決算前に必ず確認してください。
落とし穴② 「貸付け用」の資産は対象外
同じ政令の第2項には、対象から外れる資産としてこう書かれています。
「法第六十七条の五第一項に規定する政令で定める減価償却資産は、次に掲げる規定の適用を受ける減価償却資産及び貸付け(主要な事業として行われるものを除く。)の用に供した減価償却資産とする。」
本業がリース業・レンタル業でない会社が、節税目的で「買ってすぐ誰かに貸す」タイプの資産を購入しても、この特例は使えません。不動産オーナーの資産管理法人や、副業的に機材を貸し出している法人は特に注意が必要です。
落とし穴③ 所得が大きい会社は「適用除外事業者」に
そもそも「中小企業者」から除かれる適用除外事業者という区分があります。租税特別措置法第42条の4第19項第八号の原文では、事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が「十五億円を超える法人」がこれに当たるとされています。年商50億円規模でも利益率の高い会社は該当し得るため、直前3期の所得を必ず確認してください。
5. 適用開始時期といつまで使えるか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度の適用期限 | 令和11年(2029年)3月31日までに取得し、事業に使ったもの |
| 40万円への引上げの 適用開始 |
令和8年(2026年)4月1日以後に取得した資産から適用 |
6. 今できる対策
1)決算までに「30万〜40万円の買い物リスト」を作る
この価格帯の資産こそ今回の改正で新たに対象になった部分です。買い替えを先送りしていたPC・什器・ソフトウェアがないか棚卸ししてください。
2)年300万円の枠を「どの資産に使うか」を選ぶ
枠が限られている以上、耐用年数が長い(=通常なら経費化に時間がかかる)資産に優先的に枠を使うほうが有利になりやすいです。
3)従業員数を先に数える
400人(特定法人は300人)のラインを超えていないか、期首時点で確認します。超えている場合はこの特例ではなく、中小企業経営強化税制など別の制度の検討に切り替えます。
4)申告書への明細添付を忘れない
条文第3項に「確定申告書等に…明細書の添付がある場合に限り、適用する」とあります。添付漏れは適用漏れに直結します。
出典(官公庁の公式情報)
- 租税特別措置法 第67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)/第42条の4第19項
https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026(e-Gov法令検索・デジタル庁) - 租税特別措置法施行令 第39条の28
https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043(e-Gov法令検索・デジタル庁)
本記事は令和8年(2026年)8月22日時点の法令に基づいて作成しています。