令和8年9月15日、政府は「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」を閣議決定しました。食料品の消費税率を2年間だけ1%に下げることと、働く人に所得に応じてお金を支給する新しい制度をセットにした内容です。
この記事では、大綱と国税庁が公表したQ&Aをもとに、「いつから・何が変わるのか」「会社や経営者は何を準備すればよいのか」を、できるだけかみくだいて解説します。
この記事の要点
① 令和9年(2027年)4月1日〜令和11年(2029年)3月31日の2年間、食料品の消費税率が8%→1%になります。外食・お酒は10%のままです。
② 食品を売る事業者には、還付を受けるための届出、簡易課税の計算、中間申告、値札の表示などについて6つの特例が設けられます。
③ 飲食店は「持ち帰り1%・店内飲食10%」と、税率差が9ポイントに広がります。
④ 中低所得の働く人に市町村がお金を支給する「就業者負担軽減支援金」が令和9年4月から始まります。ただし金額や所得の基準は未定です。
ご注意:まだ法律ではありません
大綱は政府の方針です。国税庁も、内容は今後、法案が国会に提出され、可決・成立した場合のものだとしています。国会審議で内容が変わる可能性がある点にご注意ください。この記事は令和8年9月16日時点の公表資料にもとづいています。
1.何が決まったのか ―「2本立て」の大綱
今回の大綱は、次の2つの施策を組み合わせたものです。政府は令和11年度から、働く人の税や社会保険料の負担を所得に応じて軽くする「給付付き税額控除」を本格的に始める方針で、今回の2年間はそこへつなぐ「つなぎ期間」と位置づけられています。
| 施策 | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| ① 食料品の消費税率の引下げ | 令和9年4月1日〜令和11年3月31日(2年間) | 軽減税率8% → 1% |
| ② 就業者負担軽減支援金 | 令和9年4月〜(令和11年度に本格導入) | 中低所得の働く人に、所得に応じた現金を年1回支給 |
令和9・10年度の支援金は、全体の費用が「食料品にかかる消費税1%分に相当する額」の範囲になるよう定めるとされています。また、減税と支援金の財源は、赤字国債に頼らず、補助金や租税特別措置の見直しなどで確保するとされています。
2.食料品の消費税は、いつから・どう変わる?
【図1】引下げ期間中の税率
| 食料品 (酒類・外食を除く)1% |
新聞の定期購読 (週2回以上発行)8% |
外食・酒類・日用品 などその他すべて10% |
出典:国税庁リーフレット「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げについて」(令和8年9月)をもとに作成。1%の内訳は国0.78%・地方0.22%。
1%になる食料品の範囲は、いまの軽減税率(8%)の範囲とまったく同じです。テイクアウト・出前・宅配は1%、店内飲食やケータリングは10%という線引きもそのまま引き継がれます。
計算例:「7%安くなる」わけではありません
税抜1,000円の商品は、いま1,080円(8%)→ 引下げ後は1,010円(1%)。
値下がりは70円で、率にすると約6.5%です(70円÷1,080円)。価格改定や値札の作成のときに間違えやすいポイントです。
【図2】押さえておきたいスケジュール
| 令和8年9月15日 | 大綱を閣議決定(現在ここ) |
| 今後 | 法案を国会に提出 → 成立すれば実施が確定 |
| 令和9年1月1日 | 定期便・通販で「8%のまま」になるかどうかの分かれ目の日 |
| 令和9年2月1日〜5月31日 | 値札の特例期間(条件付きで8%・1%どちらの表示も可) |
| 令和9年4月1日 | 食料品の税率が1%にスタート/支援金の制度開始 |
| 令和11年2月1日〜5月31日 | 値札の特例期間(終了時) |
| 令和11年4月1日 | 食料品の税率が8%に戻る/支援金が本格実施へ |
出典:大綱(令和8年9月15日閣議決定)、国税庁Q&A(令和8年9月)をもとに作成。法案提出の具体的な日程は、公的機関からはまだ公表されていません。
3.業種によって影響はこんなに違う
消費税は、売上で預かった税から、仕入や経費で払った税を差し引いて納める仕組みです。今回は食料品の税率だけが下がるため、「何を売って、何を買っているか」によって影響がまったく変わります。
| 事業の内容 | 何が起きるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 食品スーパー・食品卸・食品メーカー(本則課税) | 売上の税は1%に下がるのに、包材・運送・電気・外注などの経費は10%のまま。納める消費税が大きく減り、還付になる事業者も出てきます。 | 還付は申告の後なので、お金が一時的に寝ます。資金繰りの確認が必要です。 |
| 食品を売る簡易課税の事業者 | 特例により、食料品の売上にかかる税と同じ額を仕入税額とみなすので、食料品部分の納税は実質ゼロに。 | 簡易課税のままでは還付は受けられません。 |
| 食品を売る免税事業者 | そのままでは還付を受けられません。 | 課税事業者になる特例あり。ただし原則2年間は課税事業者です。 |
| 飲食店(店内飲食中心) | 売上は10%のまま、食材の仕入れが1%に。差し引ける税が減るので、納める消費税は増えます。 | テイクアウト(1%)との価格差が9ポイントに。終了時の中間申告にも特例あり。 |
| その他の業種(建設・製造・サービス・不動産賃貸など) | 直接の影響は小さめ。社内で買うお茶・弁当、食品の贈答品などが1%になります。 | 会計ソフトの税区分(1%)の追加と、受け取る請求書の税率確認。 |
飲食店の「納税が増える」は損なのか?
食材を仕入れるときの消費税が8%から1%に下がると、差し引ける税が減るため、確定申告で納める消費税は増えます。ただし、仕入先がその分を値下げすれば、食材の支払額も同じだけ下がります。
そのため本則課税の飲食店では、理論上は損得がほぼ相殺されます(※これは一般的な仕組みにもとづく当事務所の考え方で、実際には仕入先の価格設定によって変わります)。むしろ気をつけたいのは、テイクアウトやスーパーのお惣菜との価格差が広がることです。
4.事業者向けに設けられる6つの特例
税率の変更にともなう混乱や不公平をやわらげるため、大綱では次の特例が用意されています。
特例① 定期便・通販は「8%のまま」になる場合がある
令和9年1月1日より前に契約(通販なら販売条件の提示)をして、4月1日より前に代金を受け取った(通販なら申込みを受けた)ものは、4月1日以後にお届けしても8%のままです。お中元のカタログ販売や、先払いの定期便などが典型例です。
この取扱いは選べるものではありません。一方、契約書に「税率が1%に変わった場合は〇円」と定めておくなど、1%を前提にしていることが確認できる場合は1%になります。
特例② 免税事業者が「課税事業者」になる届出の期限を延長
食料品を売る免税事業者は、本来は課税期間が始まる前に届出が必要ですが、令和9年4月1日を含む課税期間中に「課税事業者選択届出書」を出せば、その期間の初めから課税事業者になれます。還付を受けたい場合の特例です。ただし、原則2年間は免税事業者に戻れない点に注意が必要です。
特例③ 簡易課税をやめる届出の期限延長と「2年縛り」の解除
食料品を売る簡易課税の事業者は、令和9年4月1日を含む課税期間中に「簡易課税制度選択不適用届出書」を出せば、その期間から本則課税で申告できます。簡易課税を選んだら2年間は続けなければならない、いわゆる「2年縛り」もこの期間には適用されません。本則課税に切り替えると、仕入れのインボイスを保存する必要がある点は押さえておきましょう。
特例④ 簡易課税のまま計算するときの特例
簡易課税を続ける場合、食料品の売上にかかる税と同じ額を仕入税額として差し引けることになります(業種区分は関係ありません)。いわゆる2割特例・3割特例を使う場合も同じです。つまり、食料品の部分は納税がゼロになり、それ以外の売上だけで通常どおり計算します。
特例⑤ 中間申告が「払いすぎ」にならないための特例
中間申告は前期の納税額をもとに計算するため、税率が下がると払いすぎになりがちです。そこで、前期の食料品の取引に1%を当てはめて計算し直した金額で中間申告できるようになります(終了時は逆に8%で計算し直せます)。仮決算による中間申告書で提出し、期限を過ぎると使えません。
特例⑥ 値札の貼り替えが間に合わないときの特例
令和9年2月1日〜5月31日と令和11年2月1日〜5月31日は、夜間に値札を貼り替えられない、商品パッケージに価格が印刷されているなどの事情がある場合、「レジでは1%で精算します」といった誤解を防ぐ掲示をすれば、8%と1%のどちらの税込価格を表示していてもよいとされます。なお、「税抜価格だけ」や「〇〇円+税」だけの表示は、引き続き認められません。
現行制度の「課税期間の短縮」も選択肢に
還付になる事業者は、申告の単位を1か月ごと・3か月ごとに短くする「課税期間の特例」を使うと、還付を早く受け取れます(国税庁Q&Aでも紹介されています)。
ただしこちらは特例による期限の延長がなく、短縮したい期間が始まる前日までに届出が必要です。いったん選ぶと2年間はやめられない点にも注意しましょう。
5.就業者負担軽減支援金とは?
税金や社会保険料を払いながら働いている人のうち、所得が中くらい〜低めの人に、住んでいる市町村が年1回お金を支給する新しい制度です。「税金を安くする」のではなく「現金を配る」形で、いわゆる「年収の壁」による働き控えを和らげることもねらいにしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始 | 令和9年4月 |
| 単位 | 世帯ではなく個人ごと |
| 支給するところ | 1月1日時点で住んでいる市町村 |
| 回数 | 年1回(令和11年度は4月の先行支給と合わせて2回) |
| 税金 | 非課税 |
| 手続き | 公金受取口座を登録している人は、原則として申請なしで市町村が認定 |
対象になる人(令和9・10年度)
- ① ちゃんと働いている:前年の「勤労所得」(給与収入に応じた額+一定額を超える事業所得・業務に係る雑所得)が下限額を超えている
- ② 高所得ではない:前年の合計所得金額が上限額以下(16歳未満の扶養親族の数で上限が変わる)
- ③ 税・社会保険料を実際に負担している:住民税額をもとにした金額と社会保険料控除額の合計(公的年金の収入額を差し引く)が基準額を超えている
- 1月1日に日本国内に住所があること(配偶者の所得要件は令和11年度から)
下限額・上限額・基準額の具体的な金額は、大綱では「今後定める」とされており、まだ決まっていません。
【図3】支給額の決まり方(イメージ)
▲ 支給額
| 定額 | だんだん増える | 支援基本額(一定) | だんだん減る | ||||||
所得が多い →
大綱の考え方をもとに作成したイメージ図です。金額や所得の区切りはすべて未定で、図の高さは実際の金額を表すものではありません。上記に加えて「年収の壁」に直面する人への加算(時限措置)と、こども加算が上乗せされます。
「年収の壁」への加算は、社会保険に加入して手取りが減ってしまう人が対象で、社会保険の短時間労働者の適用ライン(大綱の試算では給与収入106万円)から、手取りの減少が回復する水準までの人が想定されています。大綱では参考として、年収130万円で配偶者の扶養から外れた場合、手取りが回復するのは年収約160万円程度と示されています。
6.経営者・不動産オーナーが押さえておきたいこと
- 経営者ご本人・役員の方:支援金には所得の上限があるため、対象外となる可能性が高いと考えられます(上限額が未定のため、あくまで見込みです)。
- 従業員の方:パート・アルバイトの方を中心に、対象となる人は少なくないと見込まれます。「年収の壁」への加算により、勤務時間を増やしたいという希望が出てくる可能性もあります(見込みです)。
- 給与事務:制度の運用に向けて、源泉徴収票・給与支払報告書などの様式が変わる予定です(社会保険料控除額や扶養する子どもの数など)。どの年分から変わるかは、まだ公表されていません。
- 不動産オーナーの方:支援金の「勤労所得」に含まれるのは、給与・事業所得・業務に係る雑所得です。家賃収入(不動産所得)は勤労所得には入りませんが、上限を判定する合計所得金額には含まれます。
- 今後の検討課題:株式などの金融所得や預金の利子、さらに保有する資産の状況を支援金の判定に反映させることが検討されます。
7.よくある質問
Q.3月31日に仕入れた食料品を4月に売ったら、税率はどうなりますか?
A.仕入れは8%、売上は1%です。税率は取引をした日で判定するため、仕入れと販売で税率が異なることになります(国税庁Q&A問1-3)。
Q.3月に8%で売った商品が、4月に返品されたら?
A.8%で計算します。もともと8%で売ったものなので、返品による対価の返還も8%にもとづいて計算します(同Q&A問1-5)。
Q.月の途中で締める請求書(3/16〜4/15)はどう書けばいいですか?
A.請求書を3月分と4月分に分けて発行するか、同じ請求書の中で3月分(8%)と4月分(1%)を区分して記載する方法が示されています(同Q&A問2-2)。
Q.うちは食品を扱っていませんが、何か対応は必要ですか?
A.社内で購入する飲食料品や、取引先への食品の贈答などが1%になります。会計ソフトの税区分の追加と、受け取った請求書の税率の確認は必要になると考えられます。
まとめ
食料品の消費税率の引下げは、消費者にとってはシンプルな「値下げ」ですが、事業者にとってはレジ・請求書・会計・届出・資金繰りと、多方面の準備が必要な改正です。特に食品を扱う事業者は、本則課税と簡易課税のどちらが有利か、課税期間を短縮するかといった判断を、令和9年4月までに行うことになります。
一方、就業者負担軽減支援金は、金額や所得の基準がまだ決まっていません。今後の法案や政省令の公表を待って、改めて確認する必要があります。