消費税・インボイス制度
免税事業者からの仕入れに係る
仕入税額控除の経過措置
「8割控除」から「7・5・3割控除」へ ― 2026年10月1日の切替えに向けた実務対応
2026年8月時点の法令・公表情報に基づく
この記事の要点
- 免税事業者等からの課税仕入れについて認められてきた80%控除は、2026年9月30日で終了します。
- 令和8年度税制改正により、翌日以降は当初予定の50%ではなく70%控除となり、以後50%→30%と段階的に縮小、2031年10月1日以降は控除不可となります。
- 同時に、一の免税事業者等からの課税仕入れの上限が10億円から1億円に引き下げられました。
- 実務上は、会計システムの税区分追加と社内周知が2026年10月までの必須対応となります。
1. 経過措置とは何か
インボイス制度(適格請求書等保存方式)のもとでは、原則として適格請求書発行事業者が交付したインボイスの保存がなければ仕入税額控除を受けられません。免税事業者はインボイスを交付できないため、制度を厳格に適用すれば、免税事業者と取引する課税事業者の納税額はその分だけ増加します。
この負担が一気に生じると、免税事業者が取引先から排除されかねません。そこで、免税事業者等からの課税仕入れであっても、一定期間は仕入税額相当額の一定割合を控除できる激変緩和措置が設けられました。これが本記事で扱う経過措置で、根拠は平成28年改正法附則52条・53条です。
混同しやすい制度との違い
この経過措置は「免税事業者から仕入れる側(買手)」の制度です。よく併記される「2割特例」「3割特例」は、免税事業者からインボイス発行事業者になった「売手」の納付税額を軽減する別制度です。立場が逆である点にご注意ください。
2. 令和8年度税制改正による控除割合の見直し
改正前のスケジュールでは、2026年10月1日に控除割合が80%から50%へ一気に引き下げられ、2029年10月1日で経過措置は終了する予定でした。令和8年度税制改正では、小規模事業者への配慮から引下げのペースを緩やかにしたうえで、適用期限が2年延長されました。国税庁はこれを「7・5・3割控除」と呼称しています。
| 期間 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 2023.10.1 〜 2026.9.30 | 80% | 80% |
| 2026.10.1 〜 2028.9.30 | 50% | 70% |
| 2028.10.1 〜 2030.9.30 | 50% → 控除不可 | 50% |
| 2030.10.1 〜 2031.9.30 | 控除不可 | 30% |
| 2031.10.1 〜 | 控除不可 | 控除不可 |
※ 2026年10月1日の切替えは課税期間単位ではなく課税仕入れを行った日を基準とします。3月決算法人などは、一つの事業年度の中で80%と70%が混在する点に注意が必要です。
3. 控除限度額(1億円基準)の引下げ
見落とされがちですが、令和8年度税制改正では控除割合と併せて金額基準も引き下げられました。
※ 2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
10億円基準の下では実質的に大企業限定の論点でしたが、1億円まで下がったことで、特定の外注先や仕入先に取引が集中している中堅企業も射程に入ります。取引先別・年度別の集計体制が整っているか、早めの確認が必要です。
4. 適用要件 ― 帳簿と請求書等の保存
経過措置は自動的に適用されるものではなく、次の保存要件を満たす必要があります。
① 請求書等の保存
インボイスそのものではなく、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存が必要です。具体的には、作成者の氏名または名称、取引年月日、取引内容(軽減税率対象である旨を含む)、税率ごとに区分した対価の額、書類の交付を受ける事業者の氏名または名称が記載されているものを指します。
② 帳簿への記載
通常の記載事項に加え、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載が必要です。個々の取引ごとに「70%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」等と記載する方法のほか、対象取引に「※」などの記号を付し、その記号の意味を欄外に表示する方法も認められています。
2026年10月以降の表記について:これまで「80%控除対象」としてきた記載は、以後の課税仕入れについて「70%控除対象」等に改める必要があります。実際の記載文言の具体例は、国税庁のインボイスQ&Aが改訂される可能性があるため、運用開始前に最新版をご確認ください。
5. 計算例 ― 税込110万円を免税事業者から仕入れた場合
標準税率10%の商品を税込1,100,000円で仕入れたケースで、控除割合による差を確認します。仕入税額相当額は 1,100,000円 × 10/110 = 100,000円です。
| 控除割合 | 控除できる額 | 控除できない額 (コスト増) |
|---|---|---|
| 80%(〜2026.9.30) | 80,000円 | 20,000円 |
| 70%(2026.10.1〜) | 70,000円 | 30,000円 |
| 50%(2028.10.1〜) | 50,000円 | 50,000円 |
| 30%(2030.10.1〜) | 30,000円 | 70,000円 |
控除できなかった消費税相当額は、法人税・所得税の計算上、仕入原価・経費または資産の取得価額に算入されます。したがって手取りベースでの負担増は、上表の差額に法人税等の軽減分を加味した金額となります。とはいえ、同一の取引先・同一の取引条件でも、2026年10月1日を境に1件あたり1万円分のキャッシュアウト増が生じる計算です。年間の取引ボリュームを乗じれば、影響額は無視できない規模になり得ます。
6. この経過措置を気にしなくてよいケース
次の方法で消費税を計算している事業者は、そもそも仕入税額控除の計算にインボイスの保存を要しないため、本経過措置の適用対象外です。
- 簡易課税制度を選択している課税事業者(基準期間の課税売上高5,000万円以下)
- 2割特例の適用を受けている事業者(法人は2026年9月30日の属する課税期間まで)
- 3割特例の適用を受けている個人事業者(令和9年分・令和10年分)
また、一定規模以下の事業者が行う税込1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存を要しない少額特例があります。基準期間の課税売上高1億円以下、または特定期間の課税売上高5,000万円以下の事業者が対象で、2029年9月30日までの課税仕入れに適用されます。控除割合の縮小局面では、この特例に該当するかどうかが実務上の分岐点になります。
7. 2026年10月までに行うべき実務対応
① 会計システム・経費精算システムの税区分追加
多くのシステムは「100%控除」「80%控除」「50%控除」を備えていますが、「70%控除」「30%控除」の追加が必要です。会計ソフト本体だけでなく、連携する経費精算・販売管理システムの更新も忘れずに確認してください。
② 社内周知と誤入力の防止
とくに過去の仕訳をコピーして新規仕訳を作成する運用では、税区分が「80%控除」のまま更新漏れとなる誤りが想定されます。経理部門だけでなく、立替精算を行う各部署への事前告知が有効です。
③ 取引先の登録状況の棚卸し
未登録の取引先をリスト化し、年間取引額を把握します。1億円基準に接近する取引先がある場合は、集計方法を含めて事前に検討が必要です。
④ 課税方式の再検討
控除割合が今後さらに縮小することを踏まえると、事業者によっては簡易課税制度への切替えを検討する価値があります。ただし届出のタイミングを逃すと適用できません。原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日までの提出が必要で、2割特例・3割特例の適用者には提出期限の緩和措置があります。
8. 取引条件を見直す際の留意点
控除割合の縮小分を取引価格に反映したいという発想は自然ですが、価格の見直しは独占禁止法・下請法等の規制と隣接します。とくに2026年1月1日から、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」に改正・改称されて施行されており、規制対象と規制内容がいずれも拡大しています。
- 資本金基準に加えて従業員数基準が導入され、従来は対象外だった取引関係が規制の射程に入る可能性があります。
- 受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じない、必要な説明を行わないなど一方的に代金を決定する行為が明確に問題とされます。
- 一方的な減額通告ではなく、双方が納得して合意した経緯を記録に残すことが重要です。協議の議事録化を含む社内プロセスの整備が推奨されます。
「インボイスを発行できないなら取引しない」「一方的に消費税相当額を差し引く」といった対応は、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。取引先との関係見直しは、税務上の損得だけでなく法務面の確認を併せて行ってください。
まとめ
令和8年度税制改正は、経過措置の期限を2年延長し、引下げ幅を緩和するという点で、免税事業者と取引する事業者にとって負担軽減の方向の改正です。もっとも、2026年9月30日で80%控除が終わることに変わりはなく、猶予されたのは「50%への急落」であって「縮小そのもの」ではありません。
実務面では、控除割合が段階的に4回変わることで、取引日の管理とシステム設定の精度が従来以上に問われます。10月1日の切替えまでに、システム更新・社内周知・取引先の棚卸しを済ませておくことをおすすめします。
ご留意事項
本記事は2026年8月時点で公表されている法令および国税庁の公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断を行うものではありません。記載した数値・期限は今後の法令改正や通達・Q&Aの改訂により変更される可能性があります。
とくに、帳簿への具体的な記載文言や1億円基準の集計単位の細目については、国税庁のインボイスQ&A等が今後さらに整備される可能性があります。実際の適用にあたっては最新の公表資料をご確認ください。
主な参照先:国税庁「令和8年度税制改正特集 インボイス経過措置の見直し等」、国税庁 インボイス制度に関するQ&A、財務省「令和8年度税制改正の大綱」、公正取引委員会 中小受託取引適正化法関係資料

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